この記事では丁重語の使い方について説明します。
丁重語とは
自分側の行為やものごとを、聞き手に対して丁寧に述べる表現を丁重語といいます。丁重語はもともと謙譲語に属していましたが、敬意を示す方向が謙譲語と異なるため、最近になって独立した分類です。基本的には次の単語だけ押さえておけばOKです。
- いたす(する)
- 申す(言う)
- 参る(行く、来る)
- おる(いる)
- 存じる(思う、知っている)
丁重語には、自分の所有物や行為をへりくだった言い方(弊社、愚見、拙作など)も含まれます。
丁重語の基本的な使い方
1.丁重語は通常「ます」を後ろにつけて使います。
- いたします
- 申しました
- 参りましょう
- 存じません
2.「……する」の丁重語は「……いたす」です。
- 利用する → 利用いたします
- 購入した → 購入いたしました
3.行為先と聞き手の両方に対して敬意を示すときは「お(ご)……いたす」の形をとります。
- お連れ様のお荷物をお持ちいたします
- 先方には改めてご連絡いたします
4.「いたす」の否定表現は「いたしかねる」です。
- 承知いたしかねます
間違った丁重語表現
丁重語を使う際に間違えやすいパターンを以下に示します。
パターン① 丁重語+られ(尊敬)+ます
丁重語は自分の行為をへりくだる表現なので、敬意を示すべき相手の行為に丁重語を使うことはできません。したがって、「申されました」「参られました」は一見問題なさそうに見えますが、相手の行為を下げる「申す」「参る」と、尊敬の「られ」が混在しているので不自然です。この場合は「おっしゃいました」「いらっしゃいました」が適切です。
また、よくある間違いに「どういたしましたか?」があります。これも相手の行為を下げてしまっているので、「いかがなさいましたか?」を使います。
パターン② お+謙譲語+いたす
行為先と聞き手の両方に対して敬意を示すときは「お(ご)……いたす」の形にすると説明しましたが、この……の中に入る単語が謙譲語だと二重敬語になってしまいます。たとえば「お伺いいたします」は二重敬語です。この場合は「伺います」が適切でしょう。ただし、「お伺いいたします」のように、間違った表現でも使う人が非常に多ければ、使用しても問題ないと思う人が多いようです。
パターン③ お+行為先がない動詞+いたす
その行為の向かう先に立てるべき人物がいない動詞については、「お(ご)……いたす」の形にすることができません。たとえば「利用する」「購入する」などは自分の中で行為が完結してしまうため、「ご利用いたします」「ご購入いたします」は不適切です。一方、「借りる」の場合は、貸してくれる人がいないと成り立たないので、「お借りいたします」ということができます。
「申し上げる」と「存じ上げる」について
丁重語の「申す」や「存じる」に似た言葉に、「申し上げる」と「存じ上げる」があります。これらは丁重語ではなく謙譲語に分類されるので、敬意を示す対象は聞き手ではなく行為の向かう先の人物になります。人物に対して使うので、
- 「村人よ。宿屋の場所を知っているか?」「はい、存じ上げております」
- 「その件でしたら存じ上げております」
上記の例はどちらも不適切といえます。モノや敬意を払う必要がない人物については、「存じております」を使いましょう。
ちなみに、「存じ上げる」の否定は「存じ上げません」ですが、一般的にこの表現はほとんど使用されません。知りません、わかりません、と言いたいときは
- わかりかねます
- 存じておりません
と言うことが多いです。ビジネスの場では否定的なニュアンスをさらにやわらげるために、この上に「浅学なもので~」「不勉強なもので~」などのクッション言葉を入れることもあります。