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中世ヨーロッパにおける王国の成り立ち

この記事では、王国の成り立ちについて説明します。

※ここで説明している内容は、中世ヨーロッパを下地とした架空異世界を作る方に向けたものです。文章を平易化するため史実の地名や人名は極力入れておりませんのであらかじめご了承ください。また身分制度や統治方法は、その国の地理的条件や宗教観、歴史的背景などによって大きく変わるため、ここに記している内容に限定するものではありません。

  

王国とは

ひとりの支配者が国を統治する国家形態を君主制といい、君主として王がいる国を王国と呼びます。王がどれだけの権力を持っているか、またどのようにして王が選ばれるかは国や時代によって違います。ハンガリー王国のように王がいない王国も存在しますが、創作で登場させることはほとんどないと思いますのでここでは説明を省略します。

多くの場合、一つの部族や民族を率いてきたリーダーが王となります。そのため、王国は一つの民族が一つの国を構成するというシンプルな構造をしており、比較的安定した統治が行われています。人々は王国の民であることを自覚していて、民族の正統血統者たる王に少なからず畏敬の念と愛着を感じています。

もちろん、王による税の搾取が過剰だったり、圧政を強いられたりすると、人々は反感を持って王を打倒しようとするでしょう。そんなとき王は、さらに税を増やして国民を困窮させたり、逆に嗜好品を与えてみたり、外部と戦争を始めたりすることで人々の意識を自分から逸らそうとします。ときには抵抗勢力を弾圧、粛正することもあります。

 

帝国や公国との違い

基本的には、皇帝が支配している国が"帝"国、公爵が支配している国が"公"国、と覚えておけば問題ありません。同様に、トップが伯爵であれば伯国ですし、侯爵であれば侯国です。

注意しておきたいのは、公爵や伯爵などの爵位を持った人物が治めている場合、その世界には彼らに爵位を与えた人物(皇帝、教皇、王)が存在することになります。ただし、数百年前に爵位を与えられたがその後皇帝の地位がなくなったというケースもありえます。また、皇帝に爵位を貰ったからといって帝国の傘下にあるとも限りません。

帝国には強大な軍事力で広大な土地と民族を支配する国という意味もあります。こちらは定義があいまいなので、人によって呼び方が変わり、ややこしくなる恐れがあります。たとえば現在のアメリカを指して帝国と呼ぶ論者がいますが、一般的な感覚とは異なるでしょう。

ちなみに、共和国は君主が存在せず、複数の人々が統治を行う国家を指します。王族は存在しないか、いても文化象徴的存在とされ、実権を握ることはできません。

 

王国が形成されるまでの流れ

  王(king)という言葉が血縁・血族(kuni)に由来するように、ヨーロッパの王は血統が第一です。部族長が一つの部族をまとめ、同族関係にある民族を吸収していき、一定の民族と領土を支配することで王国を形成したという流れがあるからです。このようにして自然発生的に建国された王国は、比較的内部紛争が起こりづらく、排他的、王の命令が末端まで届きやすいという特徴があります。かつて王国の民であった人々は、他国の支配下に置かれても自分たちの起源を認識しているため、王族の末裔を筆頭に王国を再建しようとすることもあります。

人為的に発生した王国の場合、国民の一部は帰属意識に乏しく、王に対して好意的でないことも多いです。たとえば他国に侵略されて王国となった場合や、大国が貴族の派閥争いで分裂して王国ができた場合などです。このような国では支配層に対して人々の不満が募り、なんらかのきっかけで武装隆起を起こすケースも見られます。

異世界転生物をはじめとした創作作品では、聖職者によって召喚された人物や、神話に登場する勇者と特徴が似た人物を王として擁立するケースを目にします。伝説の剣を抜いたアーサー王などが有名ですね。このような場合、運営の仕方にもよるでしょうが、二世三世と代替わりしてしまうと初代のカリスマ性を維持することができなくなるので、安定した統治を行うのは難しいかもしれません。

 

中世ヨーロッパにおける王国の歴史的推移

 中世ヨーロッパにおける王と貴族(諸侯)の関係性は、時代とともに変化していきます。ネット小説でよく見かける王政は、中世末期から近代にかけて形成されたフランスの絶対王政がベースになっていることが多いようです。

 

封建社会の形成

 9世紀ごろのヨーロッパでは、貨幣よりも土地を持っていることが重要とされていました。異民族の侵略や大国の崩壊が続く中、人々は地方の有力者に土地を差し出すことで自分たちの身を守ってもらおうとします。諸侯は彼らから土地をもらい、それを再び彼らに貸し与えることで、臣下として軍事奉仕と経済援助(徴税ではない)を要求する契約を結びました。この主君と臣下の関係性を封建制といいます。

封建制下では、主君と臣下の立場は対等でした。あらかじめ交わしておいた契約文にないことは臣下はしませんし、主君が契約を破れば臣下が契約を破棄することもできました。このような社会において、王は有力者の一人にすぎず、自分の領地内でしか権力をふるえませんでした。あくまで他国に対しての国の代表という役割でしかなかったのです。

 

封建制の崩壊

 中世末期、貨幣経済が発達してくると、各地の諸侯は軍事奉仕の代わりに土地代を求めるようになります。疫病で農民が大幅に減少した際には、土地代を下げたり、農民の土地保有権を強化したりすることで諸侯は農民を集めようとしました。これにより農民の負担が減少し、農民が余った農産物を売ることができるようになります。この過程で商人などの仕事が生まれ、貨幣を持った市民層が増加しました。

 同時期、各地の諸侯はローマ教皇の呼びかけにより十字軍遠征に出発します。200年にわたる戦争の結果、諸侯の力は経済的にも軍事的にも衰退していき、一方でアジアからの輸入品が増えたことで都市市場が活発化しました。

資産を持った市民層は諸侯に資産を奪われることを恐れ、王と結託するようになります。こうして王は豊かな税収を背景に権力を強めていきます。

 

絶対王政の形成

 市民の経済力が諸侯に並び始めると、諸侯たちは土地を王に差し出すことで免税特権を認めてもらい、また国王を支える官僚や軍人としての地位を得るようになります。このようにして権力を王に集中させ、貴族と市民のバランサーとして王がふるまう政治体制を絶対王政といいます。

絶対王政では王が最高決定者となり、国のあらゆることを決めていきましたが、かといって当初は何をしてもいいわけではありませんでした。王の命令は宰相をはじめとした官僚が実行しますが、当然貴族にとって不利益になることには反対します。市民も官僚や常備軍を組織するために必要な資金源という側面があったため、彼らに圧政を強いて反抗されることは避けなければなりませんでした。

フランスの絶対王政が独裁的になったのはルイ14世の頃です。宰相を不要とし、官僚から王族や貴族を排した王は、身分にこだわらない実力主義の官僚システムを作り上げます。そして王権神授説によって権力を王に集中させ、王自身が政治を行う親政政治を正当化しようとしました。

  

王国における王の役割

上述したとおり、王国における王の地位は時代によって変化しています。しかし、強権を振りかざすことだけが王の役割ではありません。王は正当な血統を継承することで、国の秩序を保つという側面も持っています。

武力を持っている人ならだれでも王になれるのであれば、かつての中国のように内戦が絶えない国になってしまいます。そこで人々は王位につける人間を血筋で限定し、一般人が王位を狙おうとすることを未然に防止しました。王の血筋が最高の政治原則であり、王位の正当性を唯一証明するものとしたのです。

王は子作りに励み、王位継承を間断なく進めることを求められました。王妃になれる人間も他国の王族に限定し、正統な血統が維持されることを人々は望みました。しかし、ここで彼らは失敗を犯します。王位継承権を持つことができるのは王妃の子のみであるという価値観を持っていたために、子供が生まれず後継者がいないという事態が頻発したのです。

 

側室と公妾

アジアの王室では側室制が採用されましたが、ヨーロッパでは公妾(こうしょう)制が採用されました。両者の違いは、産んだ子供が王位継承権を持つか持たないかという点です。側室があるアジアの王室は男性継承者をどんどん作ることができますが、ヨーロッパの王室は王妃が子供を産まない限り後継ぎができません。

そのためヨーロッパの王室では女系継承を認めざるを得なくなりました。その結果、女系継承者が結婚すると、子供の代で王朝が父親側の家系にすり替わってしまうという問題が発生するようになります。これを利用して他国の領土を支配しようとする王侯貴族も現れることになります。

 

異世界ファンタジーにおける側室

 中世ヨーロッパをベースとした異世界物作品の中には、側室制を採用している作品が数多くあります。ネット上でも、実際のヨーロッパでは公妾制だったことと比較して、この設定はリアリティがないと指摘する意見も少なからず見受けられます。

個人的には、リアリティを重視して設定を制限してもつまらないので、「そういう世界観です」で押し通すのもありだと思います。もちろんそれに対して批判をすることも間違いではありません。

ただし、側室や公妾といった一夫多妻制が認められているのであれば、そのベースに身分格差や男尊女卑の価値観が存在していることは認識しておいた方がいいと思います。